2022/07/20

1796.

久しい手紙が手元に来れば、光が差し込むようにあっという間に過去の影は失せていく。気泡を日常の風に弾かせながら、ことばを心の深くで受け入れる。今日、手紙が届いた。
深海の静寂を忘れて海面を泳ぐばかりでは人間の気持ちも読めなくなる、時化の荒れ狂う日には見慣れぬ感情に呑まれそうになる。
時代が違えば分かり合えた人間たちも、流行りの世の中では挨拶を交わし合った後で余所見した途端に絶交する。それが現代。「断ち切るのでなく解いていく」のは時代遅れ。
そのような時代にあって、手紙やメールを交わし、ことばを心の深くへ届けてくれる非常な存在は家宝のように大切だと思える。

ことばは何のためにあるのだろうか。
人を動かすためか。
心を動かすためか。
人を鎮めるためか。
心を鎮めるためか。

2022/07/07

1795.



学生の頃からお手紙を送り合っていた親友からの音沙汰も消え、ふと出会う人々とのご縁も蚕の糸のように儚くて、顔も合わせたことがなければ、ことばを交わしたこともないアカウントを傍目から覗いたり、流行りの音楽が冷たい山水のように流れていくのを受けとめ、吐き出したりして、ちょうどいまのわたしは魂をどこかへ置き忘れたように光に淡く揺れる午後の草葉だ。

やっぱり、わたしとこの世界はどこか合っていない。人はわたしを親指と人差し指で異物のように摘み出し、赤児に話すようにさようならと言う。この世界からつまみ出されたわたしに、つながりたいという作用がいっそう働く。

人間は孤独だ、と言い切った篠田桃紅さんが羨ましい。人間関係の底に棲む執着というものを、わたしだって尽く焼き払いたい。見知った人たちが星々のように久遠に散らばる。そしたらわたしは生まれ変わると、本気でそう思っている。