2020/03/29

1742.

 電灯もなく、町の明かりから離れた真っ暗闇の、いつどこで獣におそわれるかしれない藪道をおどおどしながら歩いて、だれもいない夜の海辺に立つ。そこはだれもが、わたしだけが知っているひみつの海辺だと思っている場所。

ときどき、だれもいないと思い込んでいたわたしの胸に、向こう南から異国の楽器の奏でる音楽がきこえてくる。口琴やハンドパン、ジャンベの音色がともに音楽を深くたたえた潮にのって、風にのって、やってくる。現世を生きることに不器用な、それでいて生きがいをこころに宿したひとたちがタトゥーを入れた躰で夜な夜な踊っているんだ。

低い堤防のうえに仰向けに寝転がって夜空をながめると、次第に寝静まってゆくような波の音が耳もとをとおりすぎたり、風がわたしの躰を足もとから包んでいったり。ねぇ、星がたくさん。ここにいたいね、ずっと。そうしてこころをいつまでもとかしながら、夜天の先の宇宙というものを身のまわりに感じたり、キャンバスに見立てた空の、無数の星々を自由に線でむすんだりする。

すべてが暗夜のなかへ沈み、わたしとひみつを交わして消えていってしまう星たちと同じように、このまま海といっしょに眠ってしまってもいいと思う。それとも、遠くの星たちがたがいに呼び覚ましあって、もっともっと夜空を光でいっぱいにしないだろうかとも。

流れ星がひとつ、寝息するようなひかりの呼吸のなかで消えてゆく。ふたつ、夢のような速さで、あっという間に。