マニエリスムの知的な技巧は人間の細部への感情を繊細に揺らす。彼らの特徴はいまの才ある人々の趣味的技巧に通底していて、かつて聞いた「プログレッシヴロックはクラシックに飽きた人たちの戯れ」というラベルと似ている。いまのポップス界隈でも、そういう人たちが活躍するのを見るし、現代芸術は遥か昔のマニエリスムからのリバーブに他ならない。
調和や安定への挑戦、自然の美から人工的で、意図的な複雑さ、不安定さへの転向は芸術という人類という種の活動に普遍的に備わった社会的性向なのだと思える。
しかし、マニエリスムにおける知性は単なる「調和と混沌」みたいな二項対立軸で芸術をとらえる初歩的なものではない。
彼らはその関係をより高次の観点から再編成する。
その結果として、みるものはこれまでの枠では捉えられなかったまったく新しい、しかし馴染みの感情や思考へ導かれるのだ。
例えばポントルモの「エジプトのヨゼフ」は人物と色の配置や時間軸の曖昧さにより、みるものに混雑、不安定といった新しい情動を与える。ここでは作品は、みるものに「美しい」とか「調和している」と判断させるのでない。
マニエリスムにとっての芸術は、より高次であり、そのため限りなく多様な感情、情動を表現する。